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カテゴリ : 【16】体験談

「治したくても治さない。」私自身の経験

胸やけ、精神的ストレス、頻度の増加
過食嘔吐という、不自然で非生理的な行為を続けることで、身体にさまざまな不都合が起こります。
私自身の経験をお話しましょう。

過食嘔吐による身体の症状として、まず上部消化管症状がありました。
のどや口の中がひりつくような感覚、胸やけなどです。
口やのど(咽喉頭)、食道が、胃酸によって「やけど」するために生じる症状です。
また、嘔吐してしまったという罪悪感や、抑うつ、嘔吐を続けることによる食道がんへの不安・恐怖など、心の苦しさもよく覚えています。
依存症のセオリーですが、年を経るごとに過食嘔吐症状は回数、量、時間、すべて増加していきました。
(依存症の経年増加)

病識の欠如
摂食障害では、拒食症から神経性大食症への移行など病型が変化することがままあります。
私自身も、過食性障害(むちゃ食い障害)、摂食制限型の拒食症、過食・排出型の拒食症、神経性大食症(神経性過食症)を経験しました。
全経過で、病気である自覚は非常に薄かったと思います。

特に摂食制限型の拒食症のときは、医師免許をすでに持っていたにも関わらず、全く病識がありませんでした。
体重減少に伴って月経が来なくなっても、嘔吐していないのだから摂食障害は治ったと思っていました。
治ったと思いたかったのだと思います。

やせるため、あるいは太らないために嘔吐しているときは、何かおかしいことは分かっていました。
ただ、それを病気と自覚するというよりも、「やばいなぁ・・・。なんとかしないとなぁ。」という、ぼんやりとした捉え方でした。
病院や医療機関を受診することについて考えても、自分の医師という職業のことを考えると恥ずかしさや罪悪感などで行動できませんでした。
日々の仕事のいそがしさや、飲酒によってごまかしていました。
摂食障害を抱えている医療従事者の方々の中には、同じような理由でなかなか病院の治療に踏み切れない方もいると思います。

アルコール依存症の方が、自分のことを「アル中だ。」と周囲に公言しておきながら、病院や断酒会に通おうとしない状態と似ているかもしれません。

苦しいことが自分の「当たり前」
摂食障害にパーソナリティ障害が併存しやすいことはすでに述べました。
(→摂食制限型の拒食症)
パーソナリティ障害では病識を持ちにくいことが知られています。
摂食障害に典型的な思考パターンの芽は、パーソナリティが形成されるような段階から育くまれているのではないでしょうか。

私は過食嘔吐を発症する数年前から、満足して食べ終わるということがありませんでした。
お腹がいっぱいで苦しいのに、満足できずに食べ続けることがありました。
「これ以上食べると太るから。」という理由で食べるのをやめることはできても、満足して食べ終わることはできませんでした。
物理的にお腹がいっぱいなのに満足できない感覚は、「過食衝動」だったのでしょう。

私にとって、食べ物を選ぶときに「食べたいもの」ではなく、「より太らないもの」を選ぶことは極自然なことでした。
食べないか、食べるのであればより太りにくいものを、という具合です。
自分が今何を食べたいと思っているか、じっくり考えたこともありませんでした。
強いて言えば、いつでも、なんでも、食べたいからです。

体重の増減で過剰に気分が左右されることについても、なんの違和感もありませんでした。
体重が増えると、それが健康上よい値であっても、自分がとても醜く思え、恥ずかしく、落ち込んだ気持ちになりました。
人から「やせたね。」と言われることが、例えば「君はクレオパトラのように美しい。」と言われたように感じるぐらい嬉しく、興奮しました。
摂食障害にありがちな考え方や感じ方は、私にとって疑問をさしはさむ余地が無いほどに身近で当たり前のものでした。

胃酸によるダメージと腹筋吐きの危険性

胸焼けから逆流性食道炎へ

胸やけや口内の違和感は、過食嘔吐症状が月に数回ぐらいの頻度のときは、症状の当日や翌日に限られていました。
過食嘔吐症状がほぼ毎日でるようになった頃には、舌やのどがいつも痛むようになり、辛いものが食べられなくなりました。
胸やけは徐々にひどいものになっていて、胸やけとともに胸に痛みを伴うこともありました。
典型的な逆流性食道炎の症状です。
過食嘔吐症状が毎日数回出るようになった頃には、胸やけに対しては市販の胃薬を常用していました。
胃薬を常用するものの、いつも胸がつっかえたような違和感やむかつきなどの不快感は消えませんでした。
舌やのどの感覚は常に麻痺したような状態で、味覚を含めてさまざまな感覚が低下していたように思います。
カレーなどの刺激物を食べると、その後の胸やけ症状が特にひどいので、ほとんど食べられなくなりました。

食道、咽喉頭、舌、口腔内のがん発生のリスク

過食嘔吐によって、胃酸で食道やのど(咽喉頭)、舌や口腔内が「やけど」を起こし、ダメージを受けます。
胃酸による食道の「やけど」が逆流性食道炎です。

通常、食べ物は口側から肛門側へ動いていくものです。
口→のど→食道→胃、といった具合で、つねに一方通行なのです。
胃は胃酸を産生する臓器ですから、胃酸から自分自身を守る粘液を産生し、それをまとっています。
通常は食道より上に胃酸が逆流することがないので、食道から口側の消化管には胃酸への防御機構がありません。

過食嘔吐すると、胃酸をまとった食べ物が、通常とは逆方向に動きます。
そうすると、胃酸への防御機構の無い臓器、つまり、食道・のど(咽喉頭)・舌・口内が、胃酸によって「やけど」します。
これによって、口内の痛みや違和感、麻痺したような感覚、のどのひりつき、胸やけなどの症状がでるのです。

胃酸の逆流は上記の不快な症状を起こすだけではありません。
胃酸による化学的熱傷、慢性的な炎症は、食道、咽喉頭、舌、口腔内のがん発生のリスクとなります。

専門書などで、過食嘔吐に合併する胃食道逆流症から食道がん(腺がん)のおそれ、という記載をよく目にします。
しかし、食道腺がん以外にも過食嘔吐は消化器系のがんのリスクとなる、と私は考えています。
過食嘔吐による消化器系のがんとはつまり、舌がんを含む口腔内がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん(扁平上皮がん、腺がん)などです。

食道裂孔ヘルニア

私は、過食嘔吐が始まってほどなく、下を向いてちょっとお腹に力を入れるだけで嘔吐できるようになりました。
過食嘔吐を続けると、人によっては実に簡単に嘔吐してしまえる身体に変化します。
毎日数回の過食嘔吐が必要になってから、身体を横にしたり、頭を下にするなどの体位によって、食べた物が自然に逆流してくるようになりました。
横になって寝ていると食べ物が逆流してきてしまうこともままありました。

腹筋だけで比較的簡単に嘔吐してしまえる状態はおそらく、食道裂孔ヘルニアが関係していると思います。
食道と胃の境目には横隔膜という筋肉組織が仕切りのように存在しています。
繰り返す催吐(さいと)行為によって、食道と胃の境目にある横隔膜組織がゆるみます。
その結果、胃の一部が食道のある胸腔側にひっぱりあげられてしまった状態が食道裂孔ヘルニアです。
胃液の逆流を防ぐのに一役買っている横隔膜の上の部分に胃の一部があるので、食道に胃液が逆流しやすくなります。
食道裂孔ヘルニアは、逆流性食道炎をさらに悪化させます。

ちょっとお腹に力をいれると吐いてしまえるということは、過食嘔吐をする側にとってはある意味便利で楽なことです。
一方で、楽に吐けることはつまり、胃液が食道に逆流しやすいということです。
口腔内、舌、のど(咽喉頭)、食道の胃酸による損傷やがんのリスクは、楽に吐いてしまえる方の方がより深刻となるでしょう。
私は過食嘔吐症状が止まって、胸やけや食後の不快感はほぼなくなりました。
横になって眠っている時に、吐物が上がってきて寝具を汚したり、トイレに駆け込むということもありません。
過食嘔吐によって起こる身体の変化は、症状を止める時期が早ければ早いほど、もとの機能を取り戻せる可能性が高いのです。
かといって、無理やり過食嘔吐を止めても、がまんした分が倍以上になって返ってきて、症状がますます増えるだけです。
摂食障害において、過食嘔吐症状をがまんすることなく速やかに止めることの重要性がここにあります。

あなたの過食嘔吐。そのやり方じゃ、ばれてるよ!

私自身が経験した拒食症

「もっと私を見て。」
私は、過去に2回摂食制限型の拒食状態になったことがあります。

1回目は、ダイエットをしているつもりでした。
食べ物をセーブすることで体重が減ったり、それによって体型が変わることがとても嬉しかったのを覚えています。
身体がふらついて、立ちくらみがひどくなっても、本気のダイエットをしているんだからこんなものだと思いました。
身体の不調を押してダイエットしている状態は、拒食症の病理に非常に近い状態です。
数カ月後には過食・嘔吐症状が発症し、過食排出型の拒食症に移行しました。

2回目は、炭水化物がほとんど食べられなくなりました。
この頃は、体重が減ることで強い安心感を得ていました。
体重が同じか、やや増えていると落ち着かず、そわそわとしました。
また、イライラして怒りっぽくなりました。
体重が減って月経が来なくなると、「やばいよな・・・、でも・・・。」と思いました。
私にとっては体重減少による無月経の心配よりも、体重が減って得られる安心感の方が大事でした。

いずれの場合も、摂食制限型の拒食症という病気である自覚はほとんどありませんでした。
当時を思い出すと、自分で自分を型にはめこんで、徐々に視野が狭くなり、そこを突き進むような感覚がよみがえります。
頭のカタスミで「何かおかしい」と感じていたかもしれません。

気を遣われれること・心配されることが嬉しい
摂食制限型の拒食症のときに、こんな体験をしました。
体重減少に伴って体力が落ち、私が持てなかった重い荷物を親切で運んでくれた方がいました。
周りから心配されている感覚を肌で感じました。
それには申し訳なさも感じましたが、同時に嬉しくもありました。
人が私の体調を気遣わしそうにしてくれている様子は、心躍るほど嬉しかったのを覚えています。

今当時を振り返ると、やせて周りから心配されたかったのだと思います。
病的にやせることで、ガラス細工のように大切に大切に扱われたかったのだろう、と思います。
摂食制限型の拒食症の極期にいた当時は、そのようなことは全く自覚していませんでした。

現実から逃げるためのアルコール

摂食障害はアルコール依存症を合併しやすいことが知られていますが、私にはその理由がよく分ります。
過食嘔吐し続ける自分を、アルコールなしに直視できなくなっていきます。
過食嘔吐を続けたら身体がどうなるかという正常な見通しを持ってしまったら、耐えがたい不安に見舞われます。
上記の理由から、過食嘔吐症状とアルコールがセットになっていき、アルコールの量も次第に増えていきました。
過食しながら酔っ払って眠ってしまい、吐物が上がってきて目が覚め、あわててトイレに駆け込む、ということもよくありました。
依存症には依存症が合併しやすいものです。

私が過食嘔吐し始めたばかりの頃、医学書で摂食障害について調べたことがあります。
そこには、アルコール依存症の合併が非常に多いという記載がありました。
その頃の私は、過食嘔吐はしても、まさか自分はアルコール依存症にならないだろう、と思っていました。

摂食障害にしろ、アルコール依存症にしろ、「まさか自分が」と思う人ほど、その素因があるのかもしれません。

過食嘔吐をしている私は最低です。

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