摂食障害(過食症・過食嘔吐)のホームページ



【9】-27 摂食障害女性の産科的な合併症

(1)母体に起こる合併症

摂食障害女性の妊娠分娩経過には、さまざまな合併症が起こりえます。
母体側の合併症として以下のようなものがあります。
重症妊娠悪阻、流早産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、妊娠糖尿病、帝王切開率の増加、産後うつ病の合併などです。
摂食障害の特徴としてのストレス耐性の脆弱さが、重症妊娠悪阻、流早産、常位胎盤早期剥離の発症と関係している可能性があります。
摂食障害に合併しやすい貧血も、早産と関係があります。
摂食障害の影響で肥満がある場合は、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の合併、帝王切開率の増加もありうるでしょう。

母体の「やせ」がリスクとなる

摂食障害のために「やせ」があったり、妊娠中の体重増加が不良であることは、常位胎盤早期剥離のリスクとなります。
母親の「やせ」や体重増加不良に伴う低栄養が、妊娠初期の胎盤の形成に悪影響を与えると、胎盤がはがれやすくなってしまうのかもしれません。
また、妊娠初期の「やせ」に伴う低栄養や栄養の偏りが胎盤形成不全をまねくのであれば、妊娠高血圧症候群を発症する可能性もあります。
摂食障害にうつ病を併発しやすいことはよく知られた事実ですので、産後うつ病の発症は当然ありうることでしょう。

(2)子どもに起こる合併症

摂食障害の女性が妊娠したときに、お腹の子どもに起こりうる合併症としては、胎児奇形、子宮内胎児発育不全があります。
子どもが生まれるときに元気のない状態(低Apgarスコア)で生まれることもあります。
子どもが生まれてからは、低出生体重児、未熟児(早期産児)、周産期死亡率(早産による死亡や生後7日未満の新生児の死亡)の増加などが知られています。
摂食障害は、妊娠前から「やせ」であったり、妊娠中体重増加不良に陥りやすい病気です。
そのために子宮内胎児発育不全や低出生体重児、未熟児の増加があるのでしょう。
母体が妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を合併すると、胎盤がうまく働かなくなり、その影響でも子宮内胎児発育不全となることがあります。
未熟児として出生したり、出生後も呼吸障害など命に関わる重篤な病気を合併しやすくなります。
その結果、周産期死亡率は増加するでしょう。
また、胎児発育不全は子宮内低栄養の症状です。
おそらくその子どもは将来生活習慣病にかかりやすいでしょう。

(3)特定の栄養の不足と子どもの先天奇形

摂食障害では偏った栄養摂取しかできずに、特定の栄養素の不足が生じる可能性があります。
妊娠時に栄養素の中で葉酸が不足すると、子どもに二分脊椎症という先天奇形を引き起こすことが知られています。
葉酸は、胎児にとってなくてはならない栄養素の一つで、母体自身の身体の蓄えに依存しています。
摂食障害の影響で、通常母親の身体に蓄えられているべき葉酸が少ない場合、子どもに二分脊椎症が起こりやすいでしょう。
サプリメントで葉酸を摂る、などの対処は大切ですが、そうすれば全ての問題が解決するというわけではありません。
妊娠や胎児の成長に欠かすことのできない栄養素が、現代の科学ですべて解明されているわけではないからです。
その解決法として唯一確かなものは、母体となる女性が、妊娠前から多彩でバランスのとれた食生活を送ることです。
自分自身の身体が求める食べ物を察知し、それを摂取することです。
しかし、これができないのが摂食障害なのです。

(4)胎児の脳や脊髄への影響

最近では、胎児期低栄養の影響が生活習慣病だけでなく、小児期の軽度発達障害児(自閉症や多動症)の増加に関係しているともいわれています。
胎児の脳・脊髄などの中枢神経系は、器官形成期(妊娠初期)だけでなく、妊娠全経過で成長・発達を続ける臓器です。
その特性を考えれば、母体の慢性的な低栄養は、特に胎児の脳・脊髄に影響しやすいとも考えられます。

(5)まとめ

摂食障害合併妊娠は、ハイリスク妊娠です。
重篤な産科合併症の発症にも十分留意した周産期管理を行う必要があります。
私は摂食障害を患っている方に妊娠を勧めません。
摂食障害が治るまでは避妊をするように勧めています。
その理由として、以下のようなものがあります。

妊娠・出産・子育てが摂食障害の症状を悪化させる可能性が高いこと。
妊娠分娩経過に異常をきたしやすく、母児ともに危険に陥りやすいこと。
生まれてくる子どもに生活習慣病の素因を与えてしまうことがあり、その素因が増幅されて子孫に受け継がれる可能性があること。
生まれてくる子どもに摂食障害などの依存症を受け継がせてしまう可能性が高いこと。
しかし摂食障害を患っている方のなかには、その事実をよく知らないままに妊娠してしまう方もいます。
摂食障害に関して、医療従事者の対応が統一されていないのも一因でしょう。
また、治すことをあきらめてしまっている摂食障害患者さんが多いせいもあるかもしれません。
医療従事者はもちろんのこと、摂食障害の患者さん本人も、摂食障害がある上での妊娠がいかに危険なものなのかをもっとよく知る必要があります。