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【9】-20 母体の低栄養が遺伝子に与える影響

(1)「やせ」の影響はいつ出やすい?

Barker仮説やDOHaDのメカニズムは遺伝子レベルの変化です。
とくに遺伝子発現制御系の変化、エピジェネティクスの変化といわれています。
受精卵以後、遺伝子の配列が変わることはありません。
しかし、同じ遺伝子配列でも遺伝子の発現の仕方によって、あらわれる結果(表現型)は大いに異なります。
この遺伝子の発現をコントロールしているもののひとつが遺伝子発現制御系です。
受精卵から胎児期、新生児期、乳幼児期に至るまで、発達期にはその環境の質に合わせた遺伝子レベルでの変化が起こります。
この変化はある時期を過ぎると固着し、生涯続きます。

受精時期に近いほど影響は大きい

母体が飢餓に追いやられたときに、飢餓が受精時期に近いほど、その子どもに生じた遺伝子レベルでの変化が長期間存続していた、という研究があります。
子宮内が低栄養である場合に胎児に起こる遺伝子レベルでの変化が、出生後の生活習慣病を発症しやすい体質を作ります。
そしてその遺伝子レベルの変化は、精子と卵子が合体する受精期に近ければ近いほど深刻なものとなると予測されます。
母親の低栄養の影響は、受精時期に近ければ近いほど深刻となることが予測されます。
女性が妊娠に気付いたときには、ふつうは受精後数週たってしまっています。
妊娠する前から母親の栄養状態が良好であれば、おそらく受精時にも良好でしょう。
つまり、妊娠する前から母親となる女性の栄養状態を良好に保つことが重要なのです。

(2)卵子は母体の全人生の栄養状態を反映している

受精卵が発生した時、その受精卵に強く影響するものは何でしょうか。
受精が起こった場所・環境と、受精卵のもととなる卵子と精子の状態でしょう。
受精は、女性の身体の中で起こります。
受精が起こる場所である卵管膨大部の状態は、母体の受精時の栄養状態を反映しているでしょう。
思春期を迎えた女性は、約1カ月の周期で、ひとつずつ卵子を排卵していきます。
母体の卵巣に数ある卵子の中からひとつの卵子が成熟し始めます。
母体の卵巣の中で2週間ほどかけて成熟した卵子は、卵巣を飛び出して卵管にキャッチされます。
これが排卵です。

排卵された卵子は、受精可能な期間、卵管膨大部で精子を待ちます。
精子が卵子を目指して泳いできたとき、卵管膨大部で受精が起こります。
受精が起こらなければ、受精能力をなくした卵子は排出され、その約2週間後に月経となります。
受精に至る卵子は、母親となる女性が胎児の頃からずっとその女性の卵巣の中で温存されてきました。
そして、受精に至る2週間ほど前から、母親となる女性の卵巣で成熟してきたものです。
妊娠前からの女性の人生全ての栄養状態の総和が、その女性の卵子に詰まっています。
そして、その卵子が成熟する間の、約2週間の女性の栄養状態の影響も強く受けているでしょう。
受精卵のもととなる卵子には、受精の約2週前からの母親の栄養状態、そして、それまでの母親の全人生の栄養状態の総和が反映されています。

(3)「妊娠前から」が大事

女性が妊娠に気づいてから、葉酸サプリを飲んだり、お酒をやめたり、妊娠に望ましい行動をとることは大切なことです。
しかし、妊娠に気づいてからでは遅いこともあります。
母親のこれまでの人生すべての栄養状態と受精が起こる約2週前からの栄養状態が、これから発生する受精卵のその後に強く影響するでしょう。
妊娠する前からの女性の体格・栄養状態が、その後のその女性の妊娠経過を、身ごもる子どもの将来を左右します。