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【17】-5 摂食障害・過食症・拒食症合併妊娠と常位胎盤早期剥離の関係

(1)母子の命を奪う常位胎盤早期剥離

常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)という妊娠合併症があります。
母親もおなかの赤ちゃんも命を落とすことがある非常に恐ろしい病気、妊娠合併症です。
常位胎盤早期剥離とは、赤ちゃんがおなかにいるのに、胎盤が子宮からはがれてしまう病気です。
おなかの赤ちゃんは胎盤を通して、母親から酸素や栄養をもらったり、老廃物を処理してもらっています。

胎盤がはがれて機能しなくなると、おなかの赤ちゃんが酸素をもらえないので窒息状態になり、死んでしまうこともあります。
命が助かっても、低酸素性脳症など脳に障害が残ることもあります。
母親にも、失血、播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)の合併による死の危険があります。
播種性血管内凝固症候群とは、胎盤の血だまり成分が母親の血液の均衡を崩して、全身のあらゆる臓器に出血や塞栓(つまり)を起こす病気です。
常位胎盤早期剥離では、最悪、母親とおなかの赤ちゃんの命、両方が失われることもあるのです。
常位胎盤早期剥離の母体死亡率は1~2%、児死亡率は30~50%にも上ります。

母子それぞれに後遺症が残る場合もある

命が助かっても、母親にも子供にも後遺症が残ることもあるでしょう。
子どもの脳性まひの発生原因として、常位胎盤早期剥離が占める割合は30%とも言われます。
母親の脳や脊髄などで塞栓や出血が起こってしまった場合、命が助かっても寝たきりとなってしまうかもしれません。

(2)体重増加が芳しくない場合に好発する

この常位胎盤早期剥離の原因ははっきりとしていません。
しかし、常位胎盤早期剥離を起こしやすいリスク因子はいくつか知られています。
摂食障害・過食症・拒食症の妊婦さんは、これらのリスク因子を複数持っていることが多いのです。
妊娠前の母体がやせていたり、妊娠中にうまく体重をふやせないときに常位胎盤早期剥離が起こりやすくなることが知られています。
妊娠中、体重増加が少なすぎることは、母体にとって危険なのです。

妊娠中の体重増加が多すぎることが良くないことは、広く日本で知られているようですが、少なすぎても良くない、むしろ危ない、ということは、まだまだ知られていないようです。
当然ながら摂食障害を治さずに妊娠すれば妊娠中の体重増加に悩むことになります。
少なすぎも増えすぎもあるでしょう。
おなかの赤ちゃんの成長が滞っている状態を子宮内胎児発育不全(しきゅうないたいじはついくふぜん)と言いますが、この子宮内胎児発育不全という状態も、常位胎盤早期剥離を合併しやすいリスク因子のひとつです。
母体の体重増加がいまいちで、かつ、おなかの赤ちゃんの成長も滞っている状態というのは、母親に摂食障害・過食症・拒食症があれば起こりうることですが、これは常位胎盤早期剥離の危険因子を二つあわせもつということでもあります。

(3)過食や嘔吐が子宮を圧迫したり胎盤を傷つける

また、おなかを打つなど、外傷によっても、胎盤が物理的なダメージを負うことになれば、常位胎盤早期剥離が起こることもあるでしょう。
妊娠後期には、過食でふくらむ胃が大きくなった子宮を圧迫したり、嘔吐するときにかかる腹圧が大きくなった子宮を圧迫したりするので、過食・過食嘔吐をくり返せばくり返すほど、胎盤を傷つける可能性が高まるでしょう。
過食嘔吐、普通食嘔吐をしている妊婦さんのなかには、大きくなった子宮を手で押して嘔吐をする方もいます。
嘔吐するために大きくなったおなかを部分的に押すことは、胎盤を傷つける可能性のある、大変危険な行為です。

(4)うつや精神的なストレスとの関連性

さらに、うつ状態、不安、ストレスなどをもつ妊婦さんで、常位胎盤早期剥離の発症頻度が高いことも知られています。
摂食障害・過食症・拒食症にうつ病を併存することは多く、ふつうでも、マタニティブルーという言葉で代表されるように、妊娠の前後に、母親が抑うつ的になることがあります。
摂食障害・過食症・拒食症を抱えた人生には、抑うつや不安、ストレスが多くつきまといます。
妊娠はときに体質まで変えてしまうことのあるほど、母親の身体に大きな変化を及ぼします。
また、妊娠に伴う人間関係の変化、環境の変化、体型の変化は心にも大きく作用するでしょう。
自覚に薄くとも、妊娠という大きな変化に伴い、摂食障害の妊婦さんが日々受けるストレスは相当なものです。
その上に過食・過食嘔吐・チューイング・下剤や利尿剤の誤用に振り回されている状態であれば、母体の心身に異常なほどのストレスがかかっていることは間違いありません。

(5)摂食障害・過食症・拒食症は常位胎盤早期剥離のリスクを高める

妊娠には向かないほどやせた状態で妊娠する。
妊娠中の体重をうまく増やせない。
おなかの赤ちゃんの成長が滞りやすい。
過食・過食嘔吐・チューイングが止まらない、時には子宮を押してでも嘔吐してしまう。
うつ病を併存することもある。
不安やストレスを抱えやすい。
これらは、摂食障害・過食症・拒食症を抱えて妊娠した場合に、病気の症状として当然ありうる事柄ですが、これらすべてが常位胎盤早期剥離という恐ろしい妊娠合併症につながるリスク因子なのです。
摂食障害を抱えて妊娠するということは、常位胎盤早期剥離を合併する危険が他の妊婦さんよりも格段に高いことを示します。

(6)摂食障害合併妊娠は危険な賭けである

常位胎盤早期剥離の危険性を考えたとき、摂食障害・過食症・拒食症を治さずに妊娠するということは、危険な賭けにでているのと同じことです。
お母さん自身とおなかの赤ちゃんの命、その後の人生、生活の質をかけた、非常に危険な賭けです。
賭けに負けるということは、母親か子ども、あるいは両方の命が失われることであり、命が助かっても後遺症に苦しむ、ということです。
障害のある子を、母親として全面的にサポートする覚悟が、あなたにありますか。
その覚悟があっても、あなた自身が後遺症に苦しんで、介護やサポートを必要としている場合、子どもを介護できる状態にすらなれないかもしれません。
そうなれば、あなたの愛する旦那さんや家族に全面的に頼るしかないでしょう。

あなたは、恐ろしすぎて、旦那さんにも、家族にも、誰にも言えないかもしれません。
自分が妊娠中過食嘔吐していたこと、おなかを押しても吐いていたこと、そのせいで子どもに影響がでたであろうこと。
辛い気持ちに耐えきれず、過食や過食嘔吐にすがろうとしても、それができない身体になっているかもしれません。
摂食障害・過食症・拒食症を治さずに妊娠してしまうと、一生後悔してもしきれない事態が起こる可能性もあるのです。

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