欧米人と比して、日本人はインスリン抵抗性がつきやすく、膵臓のインスリン分泌能が低い特性があります。
日本人としてのこの特性は、2型糖尿病のみならず、妊娠糖尿病をも発症しやすいことを示しています。
ここに過食症、摂食障害が加われば、2型糖尿病の発症、妊娠糖尿病の発症のリスクがさらに上がるでしょう。
過食による肥満があれば、膵臓のインスリン分泌消費が上がっている証拠で、それによる内臓脂肪の増加や高血圧、高脂血症はインスリン抵抗性を上げるでしょう。
やせていたとしても、過食や過食嘔吐行為は、高血糖や低血糖を引き起こしうるもので、その場合インスリンの分泌消費が上がり、インスリン抵抗性が上がりやすい、と言えます。
過食や過食嘔吐があると、妊娠時には妊娠糖尿病を、将来的には2型糖尿病を発症しやすいでしょう。
妊娠糖尿病について詳しく知りたい方は、【9】-2 妊娠中期 ~後期 妊娠糖尿病 ①~⑧ をご覧ください。
摂食障害の女性が妊娠することについて詳しく知りたい方は、【3】 摂食障害女性の妊娠・出産・子育て、【9】 妊娠と摂食障害のカンケイ をご覧ください。
摂食障害合併妊娠は、ハイリスク妊娠です。
重篤な産科合併症の発症にも十分留意した周産期管理を行う必要があります。
私は摂食障害を患っている方に妊娠を勧めません。
摂食障害が治るまでは避妊をするように勧めています。
その理由として、以下のようなものがあります。
妊娠・出産・子育てが摂食障害の症状を悪化させる可能性が高いこと。
妊娠分娩経過に異常をきたしやすく、母児ともに危険に陥りやすいこと。
生まれてくる子どもに生活習慣病の素因を与えてしまうことがあり、その素因が増幅されて子孫に受け継がれる可能性があること。
生まれてくる子どもに摂食障害などの依存症を受け継がせてしまう可能性が高いこと。
しかし摂食障害を患っている方のなかには、その事実をよく知らないままに妊娠してしまう方もいます。
摂食障害に関して、医療従事者の対応が統一されていないのも一因でしょう。
また、治すことをあきらめてしまっている摂食障害患者さんが多いせいもあるかもしれません。
医療従事者はもちろんのこと、摂食障害の患者さん本人も、摂食障害がある上での妊娠がいかに危険なものなのかをもっとよく知る必要があります。
摂食障害を合併した状態での妊娠・出産・子育てに対して、医療の入念なフォローアップが必要であることは、異論のないことと思います。
摂食障害を治すことを渇望している、若い女性から聞いた話です。
彼女は過食嘔吐に悩み、何ヵ所かの精神科、心療内科を受診しました。
彼女は、そのうちの一つのクリニックの医師から、「あなたはまだまだ若いんだから大丈夫。子どもでも産んで育てているうちに、そのうち過食嘔吐なんて無くなっちゃうよ。」と、言われたそうです。
摂食障害が慢性化しうる難病であること、摂食障害を抱えた上での妊娠・出産・子育ての大変さを知っていれば、口が裂けても言えない言葉です。
残念なことですが、摂食障害を診ることのある医療従事者の側に、摂食障害に関する正しい知識の有無、治療の経験値や力量に、かなりの差があるのが現状のようです。
もし、私が彼女を診たとしたら、決して妊娠をあおるような言葉は言いません。
彼女がその言葉を鵜呑みにして、のちのち止まらない過食や過食嘔吐、チューイングに苦しんでも、責任が取れないからです。
妊娠に関することは個人の自由です。
私たちには、自分で責任を取るならば、自らの意志で行動する自由があります。
摂食障害を抱えながらの妊娠・出産・子育てには、
大きな困難が伴い、妊娠・出産・子育てに伴うストレスは、摂食障害の病状をより悪化させうるものです。
摂食障害が治るまで、少なくとも過食や過食嘔吐、チューイングなどの症状が出ている間は、避妊をするなど、妊娠を避けた方が良いと、私は考えています。
摂食障害を診ることがある医師という立場から、摂食障害女性の妊娠、出産、子育てについて、あなたは、どう考えていますか?
あなたが摂食障害という病気を抱えながらも、
あなたがあなたの子どもを本当に愛しているということを、
私は疑いません。
子どもさんのために、
摂食障害を治してください。
社会の支えも勿論大切ですが、
お母さんであるあなたが健康になることが、
あなたの子どもの健康にもつながるのです。
あなたの子どもはそれを望んでいます。
あなたが、あなた自身を大切にすることは、
あなたの子どもを大切にすることなのです。
現状では、摂食障害を抱えている母親が、受けられる福祉、社会的なサービスは、ほとんどありません。
病気への誤解・偏見によるのかもしれませんし、それを恐れた患者さん自身が声をあげられない、という理由もあるかもしれません。
社会からのサポートがもっと当たり前に受けられるようになれば、
摂食障害に苦しむ母親自身の助けとなるでしょうし、
次世代を担う子どもをも助けることにもなるでしょう。