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【2】-3 低体重への医療の対応 その2 リハビリテーション

著しい低体重ではクッションとなるべき体脂肪がほとんどありません。
姿勢の保持が難しかったり、日常の動作でも痛みを伴いやすかったりします。
洋式便座から立ち上がるときにふらついたり、お風呂につかる時に硬い浴槽に座ると痛かったりします。

著しい低体重に伴い、患者さんの日常生活はすこしずつむしばまれています。

これらの症状は、患者さんが体重を増やせないから、仕方がないことなのでしょうか。

著しい低体重を伴う摂食障害の患者さんは、
低体重によって起こる日常での苦しさや痛みをすべて我慢しなければいけないのでしょうか。

摂食障害の患者さんは、
自己処罰的な傾向が強かったり、自分の欲求を相手に伝えることが上手でない方が多いようです。

これらの日常生活をむしばむ症状について、
医療従事者にわざわざ伝えなかったり、うまく伝えられなかったりしているのかもしれません。

現在の医学における整形外科からリハビリテーションの分野の知識や経験をもってすれば、
著しい低体重に伴って生じる日常生活の苦痛をやわらげることができるのではないでしょうか。

摂食障害に関する専門的な書籍のいくつかには、リハビリテーションという項目はあっても、
摂食障害の就労支援や地域社会でのリハビリテーションについて書かれていることが多いようです。

整形外科に至っては、摂食障害の関連での記載をほとんど見かけません。

整形外科やリハビリテーションの分野の医療従事者の知識と経験が、
著しい低体重によって起こる日常生活上の不都合の改善に大きく役立つのではないかと思います。

「今」を改善することは、
「今」を生きられない多くの摂食障害の患者さんにとって、病気からの回復の糸口ともなりうるのではないでしょうか。

【2】-3 低体重への医療の対応 その1 対症療法

対症療法という医療用語があります。

根本的な治療ではありません。

現在ある苦痛を取り除いたり、将来起こりうる不都合を可能であれば回避する、
といった目的の治療行為です。

今現在、摂食障害で苦しむ患者さんに、
今の医療が提供できるものを提供する、ということです。

【2】-2 低体重の慢性化

診断基準から、神経性食欲不振症には低体重を伴っています。
そして、その身体的不都合の多くは低体重に起因します。

もちろん、病気を根本から治して「やせ衝動」をなくせば、苦労なく体重を増やすことができるようになるでしょう。

残念なことに、摂食障害医療の現状はといえば、病気の原因もはっきりしておらず、治療の確立もままならない状態です。

やせていること自体が病気の症状である神経性食欲不振症の患者さんに、今の医療は何ができるのでしょうか。

飢餓症候群というモデルがあります。

やせていることによって食べ物への執着が強くなり、
心理面でもイライラしやすかったり、
視野が狭くなり頑なになりやすかったりする、
というものです。

現在の医療では、この飢餓症候群というモデルにのっとって、
とにかく、まずは体重を増やす方向で治療に取り組んでいるようです。

どうにかして体重が増えてくれば、心理面でのイライラや頑なになる傾向が軽快して、
さらに治療に反応しやすくなるという考えです。

摂食障害の患者さんにとって体重を無理やりにでも増やすことは、強い心理的苦痛を伴います。

よほどうまく事が運ばないと、医療従事者と患者さんとの関係悪化も起こりうるでしょう。

このような治療の難しさも関係しているのでしょう。

摂食障害の患者さんの中には長期間著しい低体重の状態で過ごしている方もいます。

現在の医療は、
このような患者さん方に対しては、
どのような対応をしているのでしょう。

まさか、医療従事者たるもの、
「体重を増やせないのは患者の責任だから仕方が無いよ。」
とは思っていないでしょう。

【2】-1 やせ衝動

神経性食欲不振症(拒食症)の診断基準(DSM-5)には、
「体重増加や肥満への強い恐怖」
「体重や体型の感じ方の障害」
という表現があります。

神経性過食症(過食症)の診断基準には、
「体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐、下剤や浣腸剤、利尿剤の誤用あるいは激しい運動などを繰り返し行う。」
「自己評価は、体重や体型に過度に影響を受けている。」
という表現があります。

過食性障害(むちゃ食い障害)の診断基準には、
「過食に関して明白な苦痛がある。」という表現があり、
ここには、体重が増えることに対する嫌悪の感情が少なからず含まれていると考えられます。

摂食障害の患者さんにとって、「太ること」は、恐怖、不安、嫌悪など、
ありとあらゆる不愉快な感情を引き起こす出来事です。

神経性過食症では、この不快な感情を感じないために代償行動が起きるという面もあるでしょう。
摂食障害では、神経性食欲不振症から神経性過食症への移行など、
病態が推移することがよくあります。

私にも「神経性食欲不振症、摂食制限型」の時期がありました。

体重計に乗った時に体重が減っていると、とても安心したことをよく覚えています。
摂食障害をかじったことのある医療従事者であれば、
「拒食症」というと「肥満恐怖」「やせへの希求」という言葉が思い浮かぶでしょう。

「肥満恐怖」「やせへの希求」は、「やせ衝動」とも言えるのではないでしょうか。

「衝動」は自らの意志でコントロールすることができません。

摂食障害の患者さんには、どの病型であろうと、多かれ少なかれ「やせ衝動」があると考えられます。

やせ衝動がありながら、
過食衝動に伴う過食や過食嘔吐もあるので、
摂食障害を患っている人の体型はさまざまです。

【1】-3 過食や過食嘔吐と腹痛 その3

消化管ではありませんが、消化・吸収に深く関係する膵臓という臓器があります。
膵臓は、蛋白や脂肪を分解する消化酵素の分泌(膵液)を行います。

また膵臓は血糖を下げる唯一のホルモンであるインスリンの分泌を行っています。
膵液には蛋白分解酵素が含まれますが、たんぱく質である膵臓が溶けて消化されることはありません。
膵液は、膵臓では蛋白を分解する一歩手前の状態にとどめられるからです。
膵臓と消化吸収を盛んに行う上部の小腸(十二指腸)は一部で接しています。
膵臓で作られた膵液はそこから小腸に分泌されます。
小腸液と膵液が交わることで、膵液中の蛋白分解酵素は完全な状態に変化し、消化が始まります。

摂食障害で過食や過食嘔吐を伴う方には、急性膵炎を起こすリスクがあります。
過食によって、ダンピング症候群が起こると小腸内の水分が増えて小腸内腔の圧があがります。
また、嘔吐を繰り返して小腸液が胃に逆流したりすると小腸内腔の圧のバランスが崩れます。
これらのことが起こると、活性化された蛋白分解酵素を含む膵液が膵臓に逆流することがあります。
活性化された膵液が膵臓に逆流すると膵臓の自己消化が起こります。
これが急性膵炎です。

膵炎になると、腹痛や吐き気を伴う嘔吐などの症状がでます。
また、膵臓は背中に近い臓器なので背中が痛くなることもあります。
嘔吐行為を繰り返している方の中には背部痛に身に覚えのある方がいるのではないでしょうか。
私は身に覚えがあります。

急性膵炎には重篤な全身性合併症を発症する危険があります。
激しい腹痛・背部痛があるときは医療機関を受診をお勧めします。
医療機関を受診する際には、過食・嘔吐行為や摂食障害について医療従事者に知らせた方がよいでしょう。
この情報提供が、重篤な身体疾患の早期発見に役立つこともあるでしょう。
しかし、摂食障害にはびこる誤解や偏見によって患者さんが自らの症状を隠してしまうことが多いと思います。
医療従事者はアルコール性ではない急性膵炎を診たときに過食嘔吐や摂食障害の関与を疑う必要があると思います。

摂食障害にアルコール依存症を合併することもあります。
アルコールによって急性膵炎が引き起こされることもあります。
また、アルコールを常用することで慢性膵炎となることがあります。
慢性膵炎がベースにある上での過食や過食嘔吐によって、身体的な危機がより増します。
上述した機序で急性膵炎様の病態が引き起こされやすく、慢性膵炎の急性増悪を来す可能性があるからです。